華々しい会場。
ウェディングドレスを着た麻衣子が、至福の笑みを私に向ける。
結婚が決まり、私とのことを決着付けなければと思って、意を決して麻衣子は会いに来てくれた。どこまでが真実なのか、私には分からない。だけど一つだけ、浩介がもうこの世にいないのは、確かだ。
しっかり刻まれた享年。私は、浩介にとって、いったいなんだったのだろう。そう思うと情けなくなる。結婚まで約束した間柄なのに、麻衣子が知っていて、私が知らなかった。滑稽じゃない。バカみたいに一人で泣きわめき、大事な友人を恨んでいたなんて。出来ればもう一度浩介に会って、横面を張り倒してやりたい。
数回のお色直し。友人たちのスピーチ。
私と浩介にも同じように向けられていたはずの、数々の祝福の言葉。
喉の奥が焼けるように痛む。
居た堪れない思いでいる私は、ガチャガチャと煩く音を立てて食事をする、目の前の男性に、目をやる。
ずっと、そこに居たのだろうか?
無言で、目の前の料理を食べ続ける男性と目が合ってしまい、私は慌てて目を逸らす。
「フォークとナイフって、どうも苦手なんだよな。すいません、箸をください」
一瞬、私は目を疑った。
ふと見せるしぐさや表情が、浩介と重なる。
浩介もそうだった。
あちこち海外旅行へ出かけているくせして、レストランではいつでも、箸を頼んでいた。ないと言われるとカバンに忍ばせてある、割り箸で食べだす始末だった。それがかわいらしくって、三つも年上の浩介を自然と私は、浩ちゃんと呼ぶようになっていた。
箸を貰った男性は、屈託のない笑顔を私へ向ける。
「これ、いけますよ」
魚料理を指さし、それを頬張る。
キャンドルサービスにやって来た麻衣子に、私は祝福の言葉を手向ける。
さっきまで、口いっぱいに料理を頬張っていた、男性の姿はすでになくなっていた。
トイレでも行ったのだろうと、気にも留めていなかった私は、そのまま知人たちとの会話に夢中になり、それっきりそのことを忘れてしまう。
久しぶりに、笑った気がする。
お酒で火照った頬に手を当て、私は千鳥足で駅に向う。
「あの」
その声が、誰へ向けられてのものなのか分からず、私はそのまま歩き続ける。
「あのすいません」
男性が私を追い越し、目の前に立ちはだかる。
あの男性だった。
「お名前、聞かせてもらっていいですか?」
困惑する私へ彼は頭を掻き、唐突に切り出す。
「こんなこと訊いてしまってすいません。何か俺、あなたに一目ぼれしちゃったみたいなんです。ああちなみに俺は、岡田健太郎といいます。フリーのカメラマンしています」
矢継ぎ早に言葉を連ねてきた。
一瞬の間が出来てしまう。
「ごめんなさい」
足早に通り過ぎようとする私に、岡田は言葉を掛ける。
「星を、星を見に行きませんか」
心臓がドキドキしていた。
電車に乗ってからもその鼓動は収まらず、忘れていた感情が私に蘇る。
冬の坂道。少しのワインで顔が火照っていた。つないだ手のぬくもりがあたたかくて、ずっと離したくないと思ったあの日。
涙が込み上げてきて、私は俯く。
……浩ちゃんに会いたい。
ー5ー